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外国人を採用する企業が増加しているため、外国人労働者に対する宗教・文化的配慮が必要となっています。特にイスラム教徒に対しては、配慮しなければならない部分が多くあるため、事前に理解しないといけません。そこで、この記事では、イスラム教の特徴について、イスラム教徒の会社での対応方法を解説します。

イスラム教とは

イスラム教とは7世紀にムハンマド(マホメット)が創始した宗教です。アラビア半島のメッカでムハンマドは天使ガブリエルから神(アッラー)の啓示を受けて、神の預言者となりました。唯一の神アッラーを絶対神とする一神教です。教義はムハンマドが受けた神の啓示をまとめた聖典である『コーラン』を唯一の教えとし、その内容は宗教的な教義だけではなく生活や社会の隅々にわたっています。

イスラムとは、「神への絶対帰依・服従」を意味する言葉になります。イスラム教徒は「ムスリム」と呼ばれ、アラビア語で「(神に)帰依した者」の意味になります。

世界のムスリム人口

イスラム教の信者は現在、世界に16億人いるとされています。全世界の人口の約4分の1を占め、そのうち10億人がアジアに在住しています。最も人口が多いのがインドネシアで2億人以上になります。続いてイスラム教徒の人口が多いパキスタン、インド、バングラデシュにはそれぞれ1億人以上います。ムスリム人口は2030年に全世界の3分の1に達すると予測されているため、日本でもイスラム教徒への理解は不可欠でしょう。

三大一神教のユダヤ教・キリスト教・イスラム教との関係

ユダヤ教、キリスト教、イスラム教はただひとつの神的存在者のみを認めて三大一神教と言われています。逆に仏教や神道などは神様が沢山いるため多神教になります。
キリスト教はユダヤ教を起源とし、イスラム教はユダヤ教、キリスト教を起源としています。

ユダヤ教:ヤハウェ(ヘブライ語で神の意味)
キリスト教:ゴッド(英語で神の意味)
イスラム教:アッラー(アラビア語で神の意味)

それぞれの言い方は違いますが、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教では同じ神のことを示しています。

イスラム教徒の六信五行

イスラム教徒の習慣的義務は、聖典の『コーラン』、伝承(ハディース)によって規定されています。正しい信仰は行為によって裏付けなければならないとされています。そこで、正しい信仰の内容として、6つの信仰箇条。神へ奉仕する正しい行為を5つの信徒義務として定めています。それが、六信五行(五柱)です。

イスラム教徒の六信とは

イスラム教徒が信じなければならならい6つの信仰を箇条書きしたもの。

神(アッラー)

アッラー以外に神はいないと信じる。

存在(マラク)

アッラーの命令を忠実に実行する天使(ガブリエル・ミカエル)の存在を信じる。

聖典(キタープ)

アッラーから預言者に下された様々な経典の内容を信じる。

預言者(ナビー)

アッラーから送られた預言者(アブラハム・モーセ・ムハンマド等)が存在していたことを信じる。

来世(アーヒラ)

死後の世界の存在(死後の復活)を信じる。

予定(カダル)

全ての人間の運命はアッラーの定めた天命と信じる。

イスラム教徒の五行とは

イスラム教徒の五行(イバーダート)は神に対する人間の奉仕義務を意味しています。五行を実践することは、神への忠誠を示すだけではなく、イスラム教徒間で一体感を高められ、信仰を身に付けていくことができます。

信仰告白(シャハーダ)

「アッラーのほかに神はなし。ムハンマドはその使者(預言者)なり」と告白することです。礼拝のたびにこれを唱えます。

礼拝(サラー)

礼拝は、神の偉大さを称えるための聖なる行為になります。メッカのある北西に向かって1日5回の礼拝が義務付けられれています。

1日5回の礼拝の時間
・夜明け前
・正午過ぎ
・日没前
・日没後
・就寝前

喜捨(ザカート)

貧しい人に施しを与えること。実質的には宗教税、教育税になります。集められた喜捨は貧者、孤児などの困窮者に与えられます。これを個人の自由意志としている場合もあります。

断食(サウム)

ラマダーン(イスラム暦第9月)の30日間、昼間の断食を行うことが義務付けられています。この期間中は夜明けから日没まで、一切の飲食を断ち、慎み深い生活を送ることになります。断食は最大の欲望である食欲に打ち勝ち、食無き人への思いを新たにします。

イスラム暦第9月は、純粋な太陽暦に従って行うため、毎年11日ほど前にずれていき、毎年日程が違います。この影響で33年ですべての季節の断食を体験することになり、一生で同じ時期の断食を平均2〜3回づつ行うと言われています。

巡礼(ハッジ)

イスラム暦第12月(ズール・ヒッジャ月)の7日〜10日にかけて、「神の館」であるメッカのカーバ神殿、近郊の聖域へ巡礼することは、一生に一度は行うべき義務となっています。他の四行とは異なり、巡礼は実行できる体力や財力のある者のみが行なえばいいとされています。

イスラム法(シャーリア)は社会の憲法以上

六信五行を補う法律的な規範が、イスラム法(シャーリア)です。これは、イスラム教が守るべき法律で、宗教的態度だけではなく、憲法、民法などの法律を含む日常生活の隅々まで、規律が浸透しています。宗教的規範で法律もできているという訳です。シャーリアの最高法規の「コーラン」を「ハーディス」「イジュマー」「キヤース」の3つ記録が補完する形で体系化されました。
内容的には以下の2つに大別されます。

儀礼的規範(イバーダート)

儀礼的規範(イバーダート)とは礼拝、喜捨、断食、巡礼、葬式などの宗教的儀式に関するものを指します。

法的規範(ムアーマラート)

法的規範(ムアーマラート)とは、婚姻、親子関係、相続、契約、売買、裁判、聖戦など日常生活をとどこおりなく営むための様々な決まりごとを指します。

イスラム法(シャーリア)の行動規範

儀礼的規範(イバーダート)、法的規範(ムアーマラート)を含めたイスラム法(シャーリア)の具体的な行為についての内容は次の5つに分類されています。

ファルド(義務)

五行(信仰告白・礼拝・喜捨・断食・巡礼)のこと。

マントゥーブ(推奨)

自発的に規範以上の礼拝を行うことは、義務ではないが推奨される。

ハラール(許可)

食材や料理など合法で許された物事のこと。

マクルーフ(忌避)

離婚など禁じられていなが好ましくないもの。

ハラーム(禁止)

禁止された非合法なもののこと。具体的には、不信仰・殺人・窃盗・豚肉を食す・飲酒・姦通・中傷など。これらの行為を犯した場合はイスラム法の規定により罰せられる。

イスラム教徒の服装

イスラム教徒の女性は、外出する時はスカーフやベールをまとい、顔と身体全体を隠します。女性は顔と手以外を隠さなければならないとされているためです。
女性をよそ者や敵の目から隠したり、家の中に留まらせたりすることは、イスラム世界で昔から広く行われています。これは、女性の貞節は家族の名誉だと考えられているためです。

利子は禁止

イスラム法では、利子を取ることを禁止しています。銀行は利子を取らずに、事業が成功したらその利益を分配するという仕組みになっています。

イスラム教では一夫多妻制がある

イスラム教では一夫多妻制を認めていて、夫は妻と4人まで結婚することができます。ただし、夫は妻達を完全に同格、同等に扱わなければなりません。この制度は昔、イスラム帝国が発展していく過程で多くの戦争未亡人や孤児が生まれたことから、社会の安全弁として取り入れられたとされています。現在のイスラム社会では、明確に法律で禁止している国や、黙認はしても推奨はしないという立場をとっている国が多いです。

イスラム教徒の会社での対応方法

会社では礼拝堂の部屋を用意

イスラム教では、決まった方角に向かって礼拝(サラー)を1日5回(夜明け前、正午過ぎ、日没前、日没後、就寝前)行いいます。会社の一般的な就業時間では、2〜3回(正午過ぎ、日没前、日没後)の礼拝が必要になります。

正午過ぎの礼拝はランチの時間に行います。1回の礼拝時間は、5分〜10分程度です。礼拝を行う時間割に関しては一定でなく、常に変わります。

会社の礼拝場所に関して、イスラム教徒の人は清潔な場所であればどこでもお祈りできますが、会社の空室の会議室などを提供するといいでしょう。

必須ではありませんが、休憩室を礼拝室へ改装したり、浴室など水の通る場所をウドゥ用のシャワー室に改装して準備するとよりいいでしょう。ウドゥとは、礼拝前に体の一部を洗い清める行為です。主に、手・口・鼻・顔・腕・神・足を水で清める必要があり、手は肘まで、足はくるぶしまで流水で洗います。

また、イスラム教国では、金曜日が集団礼拝の日として休日になることが多いです。そのため、毎週金曜日は、就業時間中に近隣の集会礼拝所での礼拝に参加することを認めるなどの対応も必要です。

礼拝を行う時間については、勤務時間にあたるか、休憩時間にあたるか、給料を支払う場合は減給なのかについて、事前に就業規則で記載しておき、双方が納得したうえで雇用契約を結ぶ必要もあります。

会社の食堂ではハラール対応の食事を用意

ハラールとは、イスラム法で許された項目のことをいいます。端的にいえば、イスラム法上で食べることが許されている食材や料理を指します。
イスラム教徒は豚、アルコール(料理酒、みりん等も含む)、宗教上の適切な処理が施されていない肉は食べてはいけないとされています。アルコールに関しては微量に含まれる調味料を避けるイスラム教徒もいます。

会社の社員食堂では、豚肉を使用していないなど、ハラールの食事メニューを提供して配慮する必要があります。食事では、食材、厨房、調理器具が教義に則っているかということに対して非常に敏感です。
また、イスラム教で左手は不浄とされているので、物の受け渡し、食事の際に左手を使わないようにしています。

「ハラール認証」のある食事が好まれ、これは各認証機関が、商品・サービスがイスラム法に基づく要件を満たしていることを保証するものになります。なお、各機関の認証に統一基準が存在しないことなどから、ハラール認証に対する考え方は一様ではありませんので注意が必要です。社員食堂では「ハラール認証」の食事を提供するのがいいでしょう。

食べ物に関して、他の宗教でも、例えばヒンドゥー教徒では、肉全般、牛、豚、魚介類全般、卵、生ものは禁止されています。ユダヤ教徒でも豚、血液、イカ、タコ、エビ、カニ、ウナギ、貝類、ウサギ、馬、宗教上の適切な処理が施されていない肉、乳製品と肉料理の組合せなどが禁止になっています。そのため社食に関しては、宗教に合わせた配慮が特に必要となっています。

断食月の会社の対応

ラマダーン(イスラム暦第9月)の30日間、昼間の断食を行うことが義務付けられていますので、職場朝礼時に体調不良の有無を確認しておきましょう。脱水症状等にならないように周りが注意することが大切です。昼食を食べないことから、希望者については昼勤ではなく、夜勤にしてもらうように対応してもいいでしょう。

身体接触は避ける

イスラム教には異性との接触は望ましくないという教えがあります。異性との握手などは、相手から求められるまでは避けた方がよいでしょう。また、頭をさわることもダメで、頭は神聖なものだと考えられており、子供の頭であっても人の頭は触ってはいけないものとされています。仮に労いの行為であっても触ってはいけません。

お土産を渡す際に注意

イスラム教では偶像崇拝が禁じられています。人形や人・動物のポストカードなどのお土産をわたす場合は、事前に本人に確認するといいでしょう。

まとめ

・イスラム教などの外国人労働者の宗教・文化について理解して配慮する
・イスラム教徒に対して会社では礼拝堂の部屋を用意する
・イスラム教徒に対して会社の食堂ではハラール対応の食事を用意する

この記事では、外国人雇用での宗教・文化的な配慮について、イスラム教を中心に解説しました。この記事も参考にしながら、外国人雇用の宗教・文化に理解を示して、配慮していくことが大切です。

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