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特定技能「造船・舶用業」の外国人労働者の受入れについて解説

特定産業分野の「造船・舶用業」とは

「造船・舶用業」は、海に囲まれている日本にとって不可欠な海上輸送に要する船舶を供給しています。また、裾野が広い労働集約型産業として地域の経済・雇用にも貢献しており、非常に重要な産業となっています。

しかし、後に紹介するように、深刻な人手不足という問題を抱えています。造船・舶用工業の基盤の維持、そして今後も発展させていくためには、造船・舶用工業について一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れることが必要不可欠です。

特定技能1号の業務内容

・溶接
溶接の手溶接,半自動溶接作業

・塗装
塗装の金属塗装作業,噴霧塗装作業

・鉄鋼
鉄工の構造物鉄工作業

・仕上げ
仕上げの治工具仕上げ作業、金型仕上げ作業、機械組上げ作業

・機械加工
機械加工の普通旋盤作業、数値制御旋盤作業、フライス盤作業、マシニングセンター作業

・電気機器組み立て
電気機器組立てに関する回転電機組立て作業、変圧器組立て作業、配電盤・制御盤組立て作業、回転電機巻線製作作業

雇用形態

直接雇用のみです。派遣雇用は認められていません。

受入れの見込み数

造船・舶用工業分野における「特定技能1号」での外国人受入れの見込み数は、向こう5年間で最大1万3,000人となっており、この数値を向こう5年間の受入れの上限として運用しています。

向こう5年間で2万2,000人程度の人手不足が見込まれている中でのこの見込み数は、毎年1%程度(5年間で7,000人程度)の生産性向上、追加的な国内人材の確保(5年間で3,000人程度)を行っても、なお不足すると見込まれる数を上限として受け入れるものとなっています。そのため、過大な受入れ数とはなっていません。

人材の基準

在留資格「特定技能」で受け入れる外国人は、技能水準、日本語能力を測るそれぞれの試験に合格する必要があります。
特定技能1号の場合は、技能水準では「造船・舶用工業技能測定試験」、日本語能力水準では「日本語能力判定テスト」または「日本語能力試験(N4以上)」それぞれに合格することが義務付けられています。

特定技能2号の場合は上記に加え、試験区分「造船・舶用工業分野特定技能2号試験(溶接)」の合格、実務経験(複数の作業員を指揮・命令・管理する監督者としての実務経験)が必要になります。
では、それぞれの試験について見ていきましょう。

「特定技能1号」の場合【「造船・舶用工業分野特定技能1号試験」または「技能検定3級」】

この試験は、造船・舶用工業分野での業務について、監督者の指示を理解し、的確に、自らの判断により業務を遂行できる者であることを認定するものとなっています。この試験の合格者は、一定の専門性・技能があり、当該分野での即戦力として就労するために必要な知識や経験を有するものと認められます。

-評価方法
「造船・舶用工業分野特定技能1号試験」
試験言語:日本語
実施主体:一般財団法人日本海事協会
実施方法:学科試験および実技試験

「技能検定3級」
試験言語:日本語
実施主体:都道府県(一部事務は都道府県職業能力開発協会)
実施方法:学科試験および実技試験

「特定技能2号」の場合【「造船・舶用工業分野特定技能2号試験(溶接)」】

「造船・舶用工業分野特定技能2号試験(溶接)」の合格水準は、全ての向きで溶接を行うことができる技能、自らの判断で適切な方法で溶接を行うことができる技能を持っていることです。また、試験合格に加えて、監督者として業務を遂行できる能力が必要とされます。この能力を確認するため、造船・舶用工業において複数の作業員を指揮・命令・管理する監督者としての実務経験を2年以上有することが要件とされています。

-評価方法
試験言語:日本語
実施主体:一般財団法人日本海事協会
実施方法:実技試験

日本国内で試験を実施する場合、以下の者は試験の受験資格がありません。
・退学、除籍処分となった留学生
・失踪した技能実習生
・在留資格「特定活動(難民認定申請)」により在留する者
・在留資格「技能実習」による実習中の者

日本語能力水準、その評価方法など(特定技能1号)

・「国際交流基金日本語基礎テスト」
「国際交流基金日本語基礎テスト」は、在留資格「特定技能」で受入れる外国人労働者に必要とされる基本的な日本語能力水準を判定するための試験です。この試験に合格した者はある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力を有するものと認められ、基本的な日本語能力水準を有するものと評価されます。

-評価方法
実施主体:独立行政法人国際交流基金
実施方法:コンピューター・ベースド・テスティング(CBT)方式

・「日本語能力試験(N4以上)」
「日本語能力試験(N4以上)」は、「基本的な日本語を理解することができる者かどうか」を認定するテストです。合格者はある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の日本語能力があるものと認められ、在留資格「特定技能」で受入れる外国人に必要とされる基本的な日本語能力水準がある者と評価されます。

-評価方法
実施主体:独立行政法人国際交流基金、および日本国際教育支援協会
実施方法:マークシート方式

「造船・舶用業」の現状

受入れの必要性

人手不足の要因は主に、少子高齢化、そして若手労働者の都市部への流出と考えられています。
造船・舶用工業は、人間の手による作業が欠かせない労働集約型産業として、国内に生産拠点を維持し、そのほとんどが地方圏にあります。

特に瀬戸内や九州には、造船・舶用工業が主要産業となり、経済・雇用において中核的な役割を担っている地域が多数あります。地域に立地する造船・舶用工業については、少子高齢化・生産年齢人口減少が進んでいることに加えて、若者の地方から都市部への流出により、日本人の若手就労者の確保に苦労している状況があります。

人手不足に関する具体的な数値は、有効求人倍率に見られます。
造船・舶用工業分野における主な職種の有効求人倍率(2017年度)は、溶接(金属溶接・溶断工)が2.50倍。
塗装(塗装工)が4.30倍。
鉄工(鉄工、製缶工)が4.21倍。
仕上げ(めっき工、金属研磨工が)4.41倍。
機械加工(数値制御金属工作機械工)が3.45倍。
電気機器組立て(電気工事作業員)が2.89倍となっています。

これらの数値から、国内の当該分野は深刻な人手不足状況にあるとされています。現時点で6,400人程度の人手不足が生じていると推計されています。

生産性向上に向けた取組

生産性向上のための取組については、「海事生産性革命(i-Shipping)」の取組により、船舶の開発・設計、建造から運航に至る全てのフェーズにICTの導入を進めることなどにより、生産性の向上に取り組んでいます。

海事生産性革命(i-Shipping):国土交通省による研究開発の支援。IoT・ビッグデータ・Aiなどの情報技術を活用した生産性向上に資する革新的技術やシステムの開発・実用化を支援・実証することにより、海事産業(造船および海運)におけるコスト競争力の強化、品質の向上、サービスの革新を図っています。

2018年度および2017年度に、造船現場における生産性を向上させるための革新的な技術開発の支援事業として、18事業の採択を行いました。今後、引き続き造船業全体の生産性を向上させるための支援を行うとともに、開発した技術の普及に向けた取組を進めることにより、生産性向上の取組を進めていく予定です。

国内人材確保に向けた取組

国内人材確保のための取組については、以下のような取り組みがあります。
・造船工学の教材の作成や造船に係る若手教員の専門指導力向上のための研修プログラムの開発。
・研修プログラムによる若手の造船業への進出・定着や女性が働きやすい現場環境の改善。
・多様な勤務形態の確保を通じた積極的な高齢者の雇用。

入管法改正による特定技能導入

ところで、在留資格「特定技能」は何を目的として新設されたものであるかをご存知でしょうか。
この「特定技能」が新設された理由を解説するために、まずは入管法から紹介していきます。

入管法とは、出入国管理及び難民認定法のことです。この入管法の改正案が2018年10月に閣議で決定。2019年4月に改正入管法が施行されました。入管法とは、日本に出入りする日本人と外国人、国籍問わず全ての人を対象とする法律です。法律による規制の内容は日本人であるか、外国人であるかによって変わります。

日本人の場合…出入国の管理が主な内容です。パスポートにハンコを押し、どこに滞在しているかを明確にします。

外国人の場合…不法滞在、密輸など、問題を起こす人が日本に入国しないようにパスポートやビザで確認をとります。また、入管法によって難民認定の可否が定められます。認定を受けた人は、日本での生活の保障を受けることができます。

改正の目的

2019年の改正の目的は、日本国内の人手不足を外国人の受け入れによって解消することです。日本は今日、進行な人手不足に陥っています。この人手不足を、外国人受入れ政策を見直し、拡大することによって解消しようということになりました。

では、見直す前の入管法のままではいけなかったのでしょうか?労働のために外国人を受け入れるには、不十分だったのでしょうか?

まず、外国人が日本に滞在するには在留資格が必要です。在留資格とは、「外国人が合法的に日本に滞在するために必要な資格」のことです。在留資格には全部で33種類あります。それぞれ、留学などの定められた活動内容、配偶者との関係があります。就労のために滞在している外国人にも在留資格があり、定められた活動内容、滞在期間があります。

今までは単純労働に従事可能な在留資格は、日本人の配偶者などの場合を除くと「技能実習」のみでした。在留資格「技能実習」を持つ外国人は特定の技能や知識を習得することを目的とし、日本で働くことができます。しかし滞在できる期間は最長で5年。5年の実習期間を終えると母国に帰らなくてはいけません。これでは日本の労働力を継続的に支えることはできません。

つまり、既存の単純労働への従事が可能な在留資格「技能実習」では、日本の深刻な人手不足を解消できないということです。

国土交通省の文書においては、「特定技能」による外国人受入れの趣旨・目的は以下のように述べられています。

「産業機械製造業分野において深刻化する人手不足に対応するため、専門性・技能を生かした業務に即戦力として従事する外国人を受け入れることで、本分野の存続・発展を図り、もって日本の経済・社会基盤の持続可能性を維持する」

そこで新設されることになったのが「特定技能」。この「特定技能」は、「技能実習」の延長ととらえることのできる在留資格です。

-「特定技能」で就労な可能な14の業種
・漁業
・飲食料品製造業
・外食産業
・介護職
・農業
・宿泊業
・ビルのクリーニング業
・素形材産業
・産業機械製造
・航空業
・電気および電子機器関連産業
・自動車整備業
・建設業
・造船および船舶工業

これらにうちどれかに当てはまる業種であれば、働くことが可能です。

特定技能を活用する際に押さえておくポイント

企業(特定技能所属機関)が在留資格「特定技能」で外国人労働者を受け入れる場合、以下の4つの条件が課されます。

1.国土交通省が設置する「造船・舶用工業分野特定技能協議会」の構成員になること。
2.「造船・舶用工業分野特定技能協議会」に対して必要な協力を行うこと。
3.国土交通省、またはその委託を受けた者が行う調査・指導に対し、必要な協力を行うこと。
4.外部の登録支援機関に「特定技能1号」の外国人支援計画の実施を委託する際は、上記1~3の条件を全て満たす登録支援機関に委託すること。

まとめ

造船・舶用業は人間の労働力に頼る割合が多い労働集約型産業であり、労働力が重要な分野です。また、海に囲まれた日本に必要不可欠な船舶を供給しているという点でも重要な分野です。今後の維持・発展には即戦力となる外国人労働者の受け入れが必要です。同時に、外国人労働者を雇用するための知識を事業者が知ることも必要になってきます。早めに把握しておき、深刻な人手不足に陥らないようにしましょう。

参考:国土交通省HP『造船・舶用工業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」に係る運用要領