技能実習制度

技能実習制度は、日本の技術等を開発途上国等に移転することで国際社会に貢献するための制度として設けられたものですが、実際には、非専門的・非技術的な業務を行うために利用されてきた実態があります。技能実習法をはじめとする法令で技能実習生の保護や制度の充実が図られています。

技能実習制度の趣旨と現状

外国人技能実習制度は、国際貢献のため、開発途上国等の外国人を日本で一定期間(最長5年間)に限り受け入れ、OJT(On the Job Training) を通じて技能を 移転する制度をいいます。あくまでも、日本の技術等を開発途上国等に移転することで国際社会に貢献するための制度であり、労働力の需給の調整の手段としてはならないことは法律上も明記されています。
「技能実習制度運用要領〜関係者の皆様へ〜」法務省・厚生労働省編によると、「技能実習制度は、我が国で開発され培われた技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、その開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的とする制度であり、これまでは「出入国管理及び難民認定法」(昭和 26 年政令第 319 号。以下「入管法」といいます。)とその省令を根拠法令として実施されてきました。 今般、技能実習制度の見直しに伴い、新たに技能実習法とその関連法令が制定され、これまで入管法令で規定されていた多くの部分が、この技能実習法令で規定され ることになりました。 ただし、制度の趣旨はこれまでと変わりがなく、その趣旨をより徹底するために、基本 理念として「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」(法 第3条第2項)と明記されています。」と説明されています。
「外国人雇用状況」によると、平成30年10月現在、外国人労働者数1,460,463人のうち、外国人技能実習生はその2割を占める308,489人であり、年々その数は増加しています※1

※1) 厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】 (平成30年10月末現在) https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/000472892.pdf

改正入管法&技能実習法の仕組み

技能実習制度の仕組み※2

技能実習生の受入れ方式

技能実習生を受け入れる方式には、企業単独型と団体監理型の2種類があります。
企業単独型は、日本の企業等(実習実施者)が海外の現地法人、合弁企業や取引先企業の職員を受け入れて技能実習を実施する方式をいい、団体監理型は、事業協同組合や商工会等の営利を目的としない団体(監理団体)が技能実習生を受け入れ、傘下の企業等(実習実施者)で技能実習を実施する方式を言います。
団体監理型がほとんどを占めています。

技能実習1号〜3号と技能実習の流れ

入管法で在留資格において技能実習が「技能実習1号」から「技能実習3号」までの3区分設けられています。
技能実習1年目は、「技能実習1号」となります。この1年目に、原則2ヶ月の座学の講習を受けることになっています。この座学の講習の間は受入企業と技能実習生との間に雇用関係はありません。ですが、その後の実習期間中は雇用関係はあります。
技能実習2年目、3年目は、「技能実習2号」となります。2号の対象となる職種は、送出国のニーズがあり、公的な技能評価制度が整備されている職種となります。1号技能実習から2号技能実習に移行するためには、所定の技能評価試験(技能検定基礎級相当)の学科試験及び実技試験に合格していることが必要です。
技能実習の4年目、5年目は、「技能実習3号」となります。対象職種は、2号移行職種と同じです。2号技能実習から3号技能実習に移行するためには、所定の技能評価試験(技能検定3級相当)の実技試験に合格している必要があります。また、3号技能実習を実施できるのは、後述する「優良な管理団体・実習実施者」のみです。

技能実習を受け入れることができる職種と範囲

技能実習を受け入れることができる職種は、送出国のニーズがあり、公的な技能評価制度が整備されている職種となっており、主務省令、つまりそれぞれの業種を担当する各省庁が定める省令によって決められています。農業、漁業、建設、食品製造関係等をはじめ、平成30年12年28日現在、80職種144作業定められています※3

技能実習法

技能実習制度は、従来より入管法とその省令を根拠法令として実施されてきましたが、2016年11月28日、外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(以下、「技能実習法」といいます。)が公布され、2017年11月1日に施行されました。新たに技能実習法とその関連法令が制定され、これまで入管法令で規定されていた多くの部分が、この技能実習法令で規定されることになりました。技能実習法は、技能実習制度の基本法として位置づけられています。

技能実習の適正な実施

技能実習制度の問題点として、監理団体や実習実施者の義務・責任が不明確であり、実習体制が不十分と指摘されていました。そこで、技能実習制度の改正では、監理団体については許可制、実習実施者については届出制とし、技能実習計画は個々に認定制となりました。
また、民間機関である(公財)国際研修協力機構が法的権限の裏付けがないまま巡回指導していたために、実効性が上がっていなかったという問題点に対しては、新たな外国人技能実習機構(認可法人)を創設し、監理団体等に 報告を求め、実地に検査する等の業務を実施することとなりました。
さらに、政府(当局)間の取決めがないために、保証金を徴収している等の不適正な送出し機関が存在しているという問題点に対しては、実習生の送出しを希望する国との間で政府(当局)間取決めを順次作成することを通じ、相手国政府(当局)と協力して不適正な送 出し機関の排除を目指すこととなりました。日本政府は、2019年5月現在、アジアの国々を中心に、13カ国と二国間取決め(協力覚書)を締結しています※4

技能実習生の保護

技能実習生の保護のため、技能実習法では、通報・申告窓口が整備され、人権侵害行為等に対する罰則等も整備されました。具体的には、実習の強制が禁止されるだけでなく、違約金等の契約への規定の禁止、パスポート・在留カード保管の禁止も技能実習法に定められています。これらに違反すると、罰則の対象となります。
また、実習先変更支援を充実されました。具体的には、技能実習を開始した実習実施者による技能実習の継続が困難になった場合で、かつ、実習生が技能実習の継続を希望する場合には、実習先の変更ができます。 実習先変更に当たって、実習の実施が困難な時に監理団体及び実習実施者が新たな実習先を確保する努力を尽くしてもなお確保できない場合には、外国人実習機構が新たな受入れ先となり得る監理団体の情報を提供するなどの支援を行います。実習先変更支援は、第2号技能実習から第3号技能実習に進む段階となった実習生についても図られており、第3号技能実習に係る実習実施者を自ら選択することができます。

※2) http://www.maff.go.jp/j/keiei/foreigner/attach/pdf/kyougikai-3.pdf 参照

※3) 2号移行対象職種の詳細については、技能実習制度 移行対象職種・作業一覧をご参照ください。 http://www.moj.go.jp/content/001293198.pdf

※4) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000180648.html

技能実習制度の現状と問題点

技能実習制度の現状

外国人技能実習制度は、技術移転による国際貢献を建前とする制度ですが、実態としては専門的・技術的分野以外の分野での労働力の確保に用いられています。外国人の側からみれば、出稼ぎのため一つの手段です。技能実習生は、製造業や農業などの現場で、もはや主力の労働力として定着している感があります。しかしながら、外国人技能実習制度については、多くの構造的問題が指摘され、たびたび人権侵害が報告されています。
具体的には、技能実習生には、制度上、転職の自由がほとんどない上に、送出国(本国)で、渡航費用、保証金等を撤収され、また悪質ブローカーに搾取されるなどして、借金を追った状態で来日する人も少なくありません。また、職場でも最低賃金を下回ってたり残業代が支払われないなどの権利侵害が起きているが、権利を主張すると、直ちに帰国させられたり、違約金を請求されたりといったことが実際にあります。こうなると、日本でお金を稼ぐどころか、借金を返済することすらできません。このことから、実習生は職場で問題があって職場を移ることも声を上げることもできません。人権侵害や不正を監督する仕組みはあるものの、これが不十分であることが指摘されています。
技能実習生を強制的に帰国させようとしたことについて損害賠償責任を認めた裁判例や、技能実習を辞めた後で残業代の請求が認められた裁判例もあります。

技能実習制度の問題点

特定技能との業務の違い

特定技能制度が新たに設定されたことで、技能実習から特定技能の在留資格に基づいた雇用をする企業が今後増えることが予想されます。しかし、人権侵害がたびたび指摘される縫製業等は、「特定技能」の14業種に含まれていない、との指摘がされています。
また、技能実習生は働き先を変えること(実習先の変更)ができる場合がかなり限定されています。

認められていない業務への技能実習生の利用

前述のように、技能実習生として在留資格が与えられるのは、主務省令によって定められた業種のみです。しかし、技能実習生として来日した外国人労働者に対し、認められてない業種の業務を行わせる問題が指摘されています。
具体例として、除染等業務を技能実習生として来日した外国人に行わせた問題に対し、法務省と厚生労働省が通知を出した事例があります※5

送出機関との不適切な関係

前述のように、渡航費用、保証金等を撤収され、また悪質ブローカーに搾取されるなどして、借金を追った状態で来日する外国人がいる例が指摘されていますが、管理団体が技能実習生の受け入れについてキックバックを要求していることについて、法務省、厚生労働省、外国人技能実習機構が、技能実習法で管理団体が管理費以外を受けとることを認めていないとして、管理団体の許可取消等を行いうる旨の通知が出されてます。

ビジネスと人権

技能実習制度にはこのような問題が指摘されているため、すでに国際的には、「人身取引」や「現代奴隷」に当たると批判されています。実際に労働搾取としか言いようのない例を目にすることもあります。昨今、「ビジネスと人権」の観点が重視されつつあるが、技能実習生を雇用する場合や、技能実習生を雇用する企業から仕入れを行う場合には、この「ビジネスと人権」の問題にも気を配る必要があります。「ビジネスと人権」の概念は、グローバル企業のサプライチェーンの文脈で用いられることが多いのですが、企業も人権に責任を持つべきことを謳う概念であり、国内でも発生しうる問題です。
特に、すでに批判の多い技能実習制度については、技能実習生に対して人権侵害が起こると、そのサプライチェーンの商品は、「人権侵害によって製造された商品」として、消費者や投資家から厳しい目が向けられる可能性があります。企業イメージを低下させるリスクのある下請企業とは取引をしなくなる可能性もあり、実際そのような動きは日本でも起きている。いくら安くて良い製品を作ることができても、労働者の権利が守られていないようでは、「売れない」というリスクが出てきます。労働者の権利の重視は、労働者だけではなく、雇用主によってもメリットになるという時代に向かっています。
いくつかの具体例として、衣料品大手のしまむらが技能実習生の人権侵害をしないよう取引先に通知した例、女性下着大手のワコールがサプライチェーンに対し人権侵害をしている会社がないか調査した例、味の素がサプライチェーンに対し技能実習生の労働実態について調査した例等が挙げられます。

※5) https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/0000197579_1.pdf
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/0000206375_1.pdf

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監修者 弁護士 難波隼人

法律事務所ASCOPE共同代表弁護士。グループとして税理士事務所も社労士事務所も抱え、クライアントの抱える課題に幅広く対応できる体制を整えている。外国人労働者問題について、弁護士として個別事件の問題解決する以上に、市場全体の問題解決をしたいとの思いから(株)外国人労働者ドットコムを立ち上げる。

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