技能実習制度

2023年4月、「技能実習制度は廃止される」という報道がありました。
この報道により、いま現在技能実習制度を運用されている方々は不安を抱えたことでしょう。

そこで今回は、
・なぜ技能実習制度が廃止されなければならないのか
・今後改善していくべく点はいったい何なのか
などを解説します。

技能実習制度廃止の背景

現在の技能実習制度が新たな制度へと移行するという動きが出てきています。

政府の有識者会議は、外国人が働きながら技術を学ぶための技能実習制度を廃止すべきだとし、
また人材確保などを目的に中長期的な滞在を円滑にし、外国人が属する企業の変更も一定程度認めるよう緩和する新たな制度への移行を求める案を示しました。

「外国人が日本で働きながら技術を学ぶ」という趣旨である現在の技能実習制度は、
発展途上国の人材育成を通じた国際貢献を目的としているはずが、実際のところ、労働環境が厳しい業種を中心に人材を確保する手段となっていました。また、技能実習生関連のトラブルが相次ぐなど、目的と実態がかけ離れているといった指摘も多くありました。

このような状況の中、2023年4月10日、政府の有識者会議は現在の技能実習制度を廃止し、新たな制度への移行を求める中間報告の草案を示しました。
新たな制度では人材育成だけではなく、働く人材の確保も目的に掲げ、これまで原則できなかった「転籍」と呼ばれる働く企業の変更も従来に比べて緩和し、一定程度認めていく方向とされています。
また、3年以上の技能実習を修了した技能実習生が、就労ビザ「特定技能」へ円滑に移行できるようにすることにより、日本国内で中長期的に活躍する人材の確保につなげるとしています。

他には、実習生の受け入れを仲介している「監理団体」について、受け入れ企業への適切な監査を怠り、行政処分を受ける例が相次いでいるため、新たな制度では企業からの独立性の確保など、要件を厳格化するとしています。

この記事では従前の技能実習制度の何が問題とされているのかを知るため、技能実習制度について深掘りしていきます。

そもそも「技能実習制度」とは何か?

「技能実習制度」は、海外の発展途上地域へ向けて国際貢献を行うために日本が導入した制度です。
当該地域の外国人を日本企業の職場に迎え入れ、日本の技術や知識を外国人技能実習生に教えます。
この実習により、発展途上国へ日本の技術を移転することが、技能実習制度の国際貢献としての趣旨です。

また、上記のような趣旨であるがゆえ、技能実習制度が「国内の人手不足を補う安価な労働力の確保等として使われること」がないように、基本理念として技能実習法(2019年11月施行、外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律)により以下の項目が決められています。

1. 技能等の適正な修得、習熟または熟達のために整備されていること
2. 技能実習生が技能実習に専念できるようにその保護を図る体制が確立された環境で行われること
3. 労働力の需給の調整の手段とされないこと

このように、もともと技能実習制度には人材確保の目的はありませんでした。
そのため、前述で『新たな制度では人材育成だけではなく、働く人材の確保主も目的に掲げ』とあったように、人材確保を制度運用の目的に含めるためには、『新たな制度』として作り直す必要があります。
2023年4月の草案にあった技能実習制度の廃止は、このような改善が目的でもあります。

技能実習制度の問題点

1. 労働力の確保としての利用

多くの企業(受け入れ機関)は、低賃金で3年間安定的な労働力を確保する目的で技能実習を利用しているという実態があります。
技能実習制度では、1年間(技能実習1号のみ)、3年間(技能実習1号と2号)、
そして最長で5年間(技能実習1号、2号、3号)在留することができます。ですが、技能実習3号はハードルが高いこと、また在留が1年だけでは日本に来るためにかかった費用を回収できないことから、技能実習は3年間在留するケースがほとんどです。
より長く技能実習を続けられる選択肢があるにもかかわらず、日本企業側の都合で実習期間が短くなってしまっています。
一方、外国人側にも「本来の趣旨とはずれている」と指摘されうる問題点があります。
技能実習制度で日本へ来る外国人には、母国よりも高額な収入を得る目的で来る場合が多いです。

つまり、技能実習制度は日本側と外国側の両サイドにおいて、「発展途上地域に対し国際貢献を行う」という崇高な目的とは乖離した意図で運用されている実態となっています。

2. 技能実習生の失踪

厚生労働省によると、令和元年10月末時点での技能実習で日本に滞在する外国人の数は約38.4万人であり、そのうち2%が失踪しています。
また会計検査院の実習生の受け入れ企業に対する外国人技能実習機構の実地検査の状況によると、2019年4~9月に起きた外国人技能実習生の失踪のうち2割にあたる755件で、同機構は20年3月末時点でも企業の労働環境などを調べる実地検査をしていませんでした。
失踪が起きてしまうこと自体良くないことですが、その後の実地検査も行われていないこともあり、現状を改善する必要性が感じられる問題点としてあげられています。

3. 労働基準法違反の例

「実際に労働者に対して時間に対する賃金ではなく、月平均所定労働時間分の賃金を支払っていた。」「時間外労働協定の締結なしに時間外労働を行わせていた。」「週40時間を超える労働時間に対して割増賃金を支払っていなかった。」などの労働基準法違反が見られていました。
このような、違法な長時間労働や賃金不払いなどが増え続け、2019年にはこうした労働関係法令違反が6796事業所で見つかっています。

4. 転籍ができないこと

現在の技能実習制度では、外国人技能実習生が日本で実習をする最長5年の間は、原則として転籍することが認められていません。制度に「外国人の育成による国際貢献」という前提があるため、育成するためには実習生は1つの職場で長期的に働くことが望ましいという考えのもと、転籍ができなくなっています。
育成することを目的としたこの原則は一見望ましいものと考えられますが、この転籍できない原則を、人手不足に悩む企業などは、「実習生を人材として失わないための口実」として悪用している実態があります。

転籍ができないために、賃金不払いや長時間労働などの不当な扱いを耐えざるを得ない事例が後を絶ちません。それでも多くの技能実習生は、雇い主とのトラブルを避けるため、不当な扱いを直接訴えない傾向にあります。雇い主の判断で「実習」が継続できなくなれば、在留資格を失い帰国しなければならないためです。

このように、転籍できない原則は現在の技能実習制度の問題点としてあげられています。

5. 実習中の妊娠が認められていない

一部の受け入れ企業や監理団体では「人材育成」という名目を盾に、「実習生は妊娠すべきではない」といった考え方が蔓延しています。このため、女性の実習生の孤立出産などの問題が起こっています。また、近年では以下のような悲しい事件も起こっています。

2023年4月18日、広島県東広島市の空き地で乳児の遺体が見つかる事件がありました。乳児の母親は19歳のベトナム人女性の技能実習生であり、4月20日に死体遺棄容疑で逮捕されました。一部報道によるとこの女性は「妊娠が知られると帰国させられると思った」などと話しているとのことです。
2020年には熊本で、同じく技能実習生だったベトナム人女性が死産した双子の遺体を遺棄したとして、死体遺棄罪に問われました。

出入国管理庁が2022年12月に公表した調査によると、送り出し機関や監理団体などから「妊娠したら仕事を辞めてもらう」などの発言を受けたことがある実習生の割合は、26.5%もありました。過去には妊娠が発覚したことで強制的に帰国させられた実習生もいます。
技能実習生は法律上労働者であり、本来は産休や育休が認められる存在です。また、妊娠を理由とした解雇は法律違反に当たります。
しかし、「妊娠すべきではない」という考えが蔓延しているため、女性の技能実習生が辛い思いをしたり、事件を起こしてしまっている現状があります。

出入国管理庁は2019年から注意喚起として技能実習生の受け入れ企業などに対し、男女雇用機会均等法や、実習生の私生活の制限を禁じた技能実習法の遵守を呼びかけています。

6. 不当な費用の高騰

監理団体は、外国の送り出し機関から技能実習生を受け入れ、企業に紹介する役割を担っています。この監理団体は非営利団体が多いのですが、中には送り出し機関に接待やキックバックの要求をする悪質な団体が存在しており、それらが実習生の抱える費用が高騰する原因につながっています。
新制度では、「人権侵害等を防止・是正できない監理団体を厳しく適正化・排除する必要」があると記されていますが、悪質な監理団体の基準の議論がされていないこと、現状の制度では監理団体も企業も適切に罰せられないこと、一元的に監督する機関である外国人技能実習機構が役割を果たせていないことが指摘されており、新制度を作っていく上での課題とされています。

技能実習制度解消(新制度設立)に向けて改善すべきこと

1. 【監理団体の改善】 仲介機関への制限・適切な選定

技能実習制度の問題点として前述しましたが、日本へ技能実習生を送り出すことにより技能実習生から手数料を得ているビジネス目的の送り出し機関が多く存在しています。このような送り出し機関では、ブローカーなどに多額の手数料を支払いながら技能実習生希望者を募集しています。ブローカーは日本の技能実習生の知識が必ずしもあるわけではなく、不確かな情報も含めて希望者を募集しているケースが多いと考えられています。その結果、実態とはかけはなれた説明(多額な収入が得られるなどの内容)をしてしまっており、技能実習生になりたい外国人が、多額の費用を抱えながら来日することとなっています。
このように、技能実習制度の問題点は、すべてが技能実習現場で発生しているわけではありません。
この状況を改善するには、日本へ招き入れるための仲介機関に関する制限も行っていく必要があります。

2. 【受け入れ機関の改善】 実習実施者の選定

適切に技能実習ができる実習実施者のみを受け入れ先として認定、および実際に運用がなされているかの監査、問題がある場合の徹底した行政指導が今後の課題とされています。

これを実現するには、認定された計画どおりに技能実習が行われているか、実際に技術が身についているかの評価、労働力補完の目的と言えないかを評価する仕組みが必要です。不正が見つかり次第対応するなどのモグラ叩き的な対応ではなく、制度および運用のそもそものルールを見直していくべきでしょう。

受け入れ企業の対応策

外国人を受け入れる企業として、「適正な技能実習の利用」を心がけることが必要です。違法な運用を行わないことはもちろんのこと、前述したような「労働者の不当に扱っている」と見受けられる行動をしてしまうと、企業としてのイメージが下がってしまいます。また、新制度で「人材確保」としての制度趣旨が認められたとしても、企業イメージが悪いようでは、受け入れ機関として認められないかもしれません。制度をきちんと理解すること、実習計画をきちんと立てて実行することを心がけましょう。

また、技能実習生が本当に満足して実習ができているかどうかを確認する必要もあります。
監理団体による過去の調査では、実習先の技能実習生の半数以上が現状に不満を抱えている場合があり、「転職したい」という回答がありました。
技能実習制度の運用は、受け入れたら終わりではありません。
受け入れ後もケアを心がけましょう。

まとめ

昨今のニュースでは「技能実習制度が発展的に解消される」といわれていますが、問題点への対策を伴った新制度できれば、実質的には「改善」となるチャンスでもあります。
しかし、改善していくためには政府の取り組みとともに、受入企業の取り組みが必要です。

政府、監理団体、受入企業のそれぞれが制度を理解し、趣旨と法律に則った運用をすることが重要です。

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執筆者
外国人労働者ドットコム編集部

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